学会名称変更について(提案)

会長 小澤康司

日本産業カウンセリング学会は1996年3月に創設されました。以来、本学会は、会員も増加し、日本学術会議より研究団体として認定され、企業や公共体、学校、病院、そして、施設、諸団体などを幅広く視野に入れ、そこに働く勤労者の健康、福祉、能力開発に貢献することを目的として、実践的なカウンセリングの研究活動を推進してまいりました。

学会の発展に伴い、「産業カウンセリング」の名称が持つ制約については、何度も、議論を重ね、概念の拡大解釈と対象者の拡大を図ってきました。スーパーバイザー委員会では、学会認定スーパーバイザー養成にあたり、対象者を産業カウンセラーのみならず、心理相談員、臨床心理士、キャリアコンサルタント、各学会や職能団体の認定カウンセラーなど働く人の心理的支援を行うカウンセラーに拡大し、現在に至っています。一般社団法人化に際し、定義委員会は、産業カウンセリングを「人間尊重を基本理念として、働く人が心身ともに健康で、それぞれの個性と役割が十分に発揮されるよう支援するカウンセリング活動の総称である。学術研究と現場実践に基づき、個人・集団はもとより組織に対して提供され、それらの成長・発達と共生関係の実現、ひいては幸福かつ持続可能な社会の創造に寄与する専門的過程である。」と定義し、「産業」に限定することなく、働く人たちや集団・組織を支援するカウンセリングの総称としました。

しかし、学術領域の国際交流を進める中、日本独自の職能資格に対応する名称である「産業カウンセリング」では、国際的に意味が通じない問題が生じており、学会の名称は国際的に通じる学術的概念がベースとなった名称に変更することが望ましいと考えるに至りました。

日本社会は、非正規雇用者が全産業の40%を超え、今後、第4次産業革命やグローバル化、100歳時代や少子高齢化などが進むことから、行政も働き方改革を進めるなど、大きな転換期に差し掛かってきたといえます。これからの日本社会の変化をみるとき、カウンセリングの重要性はますます高まるといえます。

社会構造や職場環境が激変する中で、個人は人生の中で多様な転機や問題を乗り越えることが求められ、その専門的な心理支援職が必要とされ、2015年に、心理支援職として、「公認心理師」&「キャリアコンサルタント」の2つの国家資格が創立されました。

2018年度の経過措置による公認心理師試験では約28000人が合格し、登録手続きが行われています。経過措置は5年間におよび、その後、学部・大学院を修了した受験生が試験に合格すると数万人の公認心理師が誕生する可能性があります。

公認心理師の職能団体として、幾つかの公認心理師会が各地で立ち上がっています。また、キャリアコンサルタントは約39000人(2018年12月末)が登録されて、今後も増加するといえます。このように、数年後には、この2つの職能資格者が社会的に活躍すると予想されます。キャリアコンサルタントの職能団体として、(一財)オールキャリアコンサルタントネットワークが創設されました。

このようなカウンセリングや医学などの実学の分野は、実践家による臨床的実践や研究者による学術的探究が相乗的に発展してゆくことが不可欠といえます。

新設された職能資格の学術的支援を行う学会としては、公認心理師には、国家資格化を推進してきた多くの学会(当学会も当然含まれます)が相当すると考えることができます。しかし、公認心理師となるための必要な科目には、臨床心理学や精神療法や医学関連科目は指定されていますが、「カウンセリング」が明示されていない問題があります。

一方、「キャリアコンサルタント」「キャリアコンサルティング」は厚生労働省が独自の定めた定義による名称独占資格であり、学術的背景にはキャリア開発やキャリアカウンセリング(ガイダンスを含む)などを基盤としていると考えられます。

これらのキャリア開発支援者のバックボーンとなる学会として当学会が果たすべき役割は非常に大きいと考えます。また、「キャリア」の概念については、Super.D.Eは、「キャリア」をいわゆる職業履歴ではなく、人生を構成する一連の出来事であるとし、「ライフキャリアレインボー」で示されるようにキャリアを「自己発達の全体の中で、労働への個人の関与として表現される職業と人生の他の役割の連鎖」としており、キャリア=人生とする考えは欧米では一般的といえます。特に人生コースが個別化する100歳時代においては、仕事や働くことだけでなく、家庭や退職後を含めた人生全体(キャリア)への支援が重要といえます。

このような一連の検討から、「日本産業カウンセリング学会」の名称を「日本キャリア・カウンセリング学会」に変更することを提案する次第です。

また、今後の課題として、学会の名称変更に伴い、学会が扱うべき主要な領域について再検討し、組織体制の見直しをすることも提案したいと思います。

領域案としてはNCDA(The National Career Development Association)の主要な3領域である①個人と社会の領域(WELLBEINGを含む)、②教育と生涯学習の領域③キャリアマネジメント領域、に加えて④組織開発、⑤研究・カウンセラー教育(SVを含む)などを新たな基盤領域とすることが考えられます。

ついては、学会名称変更について学会HPにて、WEBアンケート調査を実施いたしますので、ご回答くださいますようお願い申し上げます。


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