平成30年度の学会事業として進めましたアンケート調査 「キャリア開発支援者のコアコンピテンシーに関わる調査」 の最終報告書が纏まりましたので、ご報告いたします。
この研究は、日本におけるキャリア開発支援者の発達プロセスとそのコンピテンシーを明確化するとともに現状の課題と必要とされる教育プログラムを検討する目的があります。学会として、継続的に研究をするテーマと考えています。
○水野修次郎(立正大学)
野々垣みどり(亜細亜大学/目白大学大学院心理学研究科現代心理学専攻 修士課程1年)
【調査実施方法】
平成30年度2月に日本産業カウンセリング学会の倫理委員会の審査を受けて承認された。学会の個人情報保護規定に従い、株式会社クロス・マーケティングに依頼してインターネットで実施した。調査の協力を、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会並びに同協議会に加盟している団体、一般社団法人日本産業カウンセラー協会、特定非営利活動法人日本キャリア開発協会に依頼をした。実施期間は、2018年3月5日~4月22日であった
【調査結果の集計】
研究協力者は、2003名であった。キャリアコンサルタント(47%)と技能士2級(34%)の参加者が大多数であった。詳細については別紙参照。本報告書は、調査結果から判明した数値を分析・解釈して論じる。
【調査結果の分析と解釈】
この調査は3つの課題を特定する目的がある。
1)課題1 キャリアサービス専門家たちの課題を明確にする。
質問4「経験年数」と質問6「満足度」のクロス集計によって、以下が判明した。
①130名(20%)が「不満足」と回答。ちなみに、資格別ではキャリアコンサルタント有資格者の全回答者119名中48名(40%)が「不満」と答えている。 一方、「やや満足」「満足」と答えたのは、技能士1級と2級の総数343名中216名(63%)であった。全体的に満足が高いのは、技能1級および2級の研究協力者であった。
②ロールモデルの存在と自己研修の積極性との関係が重要であった。
ロールモデルの存在と自己研修との相関は、自己学習r=.300**、ワークショップ参加r=.210**、スーパーヴィジョンやコンサルテーションr=.337**、学会参加r=.262**、仲間から学ぶr=.334**であった(**は、p<.01)
2)課題2の分析
実際に必要な研修を特定する。
① 19問の基盤コンピタンシー質問を5件法(1 全くできていない 5.かなりできている)で自己評価をしてもらったが、次の2問が特に平均が低い。
・「ガイダンス・カウンセリングプログラムや介入方法を開発・実施・評価できる」 平均2.96
表1 基盤コンピテンシー質問回答平均
度数 | 平均値 | SD | |
---|---|---|---|
1 責任・役割 | 2003 | 3.62 | .977 |
2 キャリア開発 | 2003 | 3.73 | .889 |
3 文化背景理解 | 2003 | 3.61 | .940 |
4 介入 | 2003 | 3.14 | 1.007 |
5 プログラム介入 | 2003 | 2.96 | 1.073 |
6 限界意識 | 2003 | 3.91 | .882 |
7 コミュニケーション | 2003 | 3.93 | .831 |
8 情報アップデート | 2003 | 3.60 | .977 |
9 協働 | 2003 | 3.38 | 1.082 |
10 紹介キャリア | 2003 | 3.34 | .979 |
11 動機・原動力 | 2003 | 3.47 | .937 |
12 法の意味・知識 | 2003 | 3.35 | .949 |
13 プログラム開発 | 2003 | 2.83 | 1.063 |
14 転機 | 2003 | 3.56 | .943 |
15 要因・偏見知識 | 2003 | 3.45 | .937 |
16 アセスメント | 2003 | 3.47 | 1.007 |
17 公共サービス | 2003 | 3.35 | 1.004 |
18 ITスキル | 2003 | 3.83 | .930 |
19 特定グループ | 2003 | 3.28 | 1.097 |
合計 | 2003 |
・「生涯キャリア発達プログラム・介入方法に関連するプログラムを計画・作成・実施することができる」 平均2.83
① 逆に、特に高い自己評価は「クライアントの学び・キャリア開発・個人的な課題解決を促進する支援ができる」 平均3.73.
3)課題3の分析 基盤コンピテンシーを育成する研修
①資格とコンピタンシーとの相関と経験年数とコンピタンシー自己評価ともに重要な相関があったが、基盤コンピタンシー自己評価すべてが、r=.262~.432と有意な相関があった。経験年数がコンピタンシーの自己評価を高めるようである。
また、自己研修の自己評価を5件法(1.まったくしていない 5.かなりしている)で、平均は、自己学習 3.37; 研修会参加 2.99; スーパービジョン 1.67; 学会・研究会参加 2.03; 先輩・仲間から学ぶ 3.02, であった。
スーパービジョンは一般的な自己研修ではないことが分かる。
【考察と応用】
以上の結果を受けて以下の考察をした。
① 技能検定1級、2級の職業満足度はかなり高いという発見があった。
② ロールモデルの存在が満足度と関係があった。
③ 自己研修で、学会などの大会参加やスーパービジョンの頻度が低い。
④ 個人カウンセリングには自信があるが、プログラム作成・実施・評価は極端に低い。
⑤ 技能士1級、2級のコンピタンシー自己評価がより高い。
以上の結果より、学会などの大会への参加、スーパービジョンのあり方を検討し、さらに生涯発達カウンセリングのプログラム作成をして実施、評価ができるように教育する必要性があると提言できる。
【Reference】
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坂井一史、深瀬砂織、三浦有紀、種市康太郎 (2015)産業領域で働く臨床心理士のコア・コンピテンシーとキャリア・パスの検討。『心理臨床学研究 33-1』pp.15-25。
岩壁茂(2017)「指導者養成のための研修課題コンピテンシーをどのように考えるか」インターネット調査発表 2017年3月4日(財)日本心理研修センター春季研修会
厚生労働省発表の「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書要旨(平成14年7月)Retrieved from http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html)
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